奥尻商工会

 

【伴走型小規模事業者支援推進事業】

地域の経済動向調査

小規模事業者の経営発達に役立つことを目指して

 

T 事業の概要

平成26年6月に商工会及び商工会議所による小規模事業者の支援に関する法律(平成5年法律第5 1号。以下「小規模事業者支援法」という。)の一部が改正された。本改正により、小規模事業者の事業 の持続的発展を支援するため、商工会および商工会議所が、小規模事業者による事業計画の作成、およ びその着実な実施を支援することや、地域活性化にもつながる展示会の開催等の面的な取組を促進するため、商工会および商工会議所が作成する支援計画のうち、小規模事業者の技術の向上、新たな事業の分野の開拓その他の小規模事業者の経営の発達に特に資するものについての計画を、経済産業大臣が認定する仕組みが導入された(中小企業庁ホームページより引用)。

上述より、商工会および商工会議所は小規模事業者支援法(以下、「小規模支援法」という)に基づく経営発達支援計画を作成し、小規模事業者に対し有効な支援策を実施するため、伴走型小規模事業者支援推進事業を実施する必要がある。具体的には【地域の経済動向調査に関すること】、【需要動向調査に関すること】、【経営状況の分析に関すること】、【事業計画策定支援に関すること】、【事業計画策定後の実施支援に関すること】、および【新たな需要の開拓に寄与する事業に関すること】の事業を実施するも
のである。

奥尻商工会は、経済産業大臣より平成28年7月に経営発達支援計画の認定を受けた。当計画に基づき、地域の小規模事業者の事業の持続的発展を支援することが求められている。
地域の小規模事業者の持続的発展を支援するにあたり、奥尻商工会では伴走型小規模事業者支援推進事業の指針にある【地域の経済動向調査に関すること】の事業をおこない、小規模事業者を取り巻く経済環境を調査する。これにより、地域の小規模事業者に現状の事業環境を客観的資料とともに提供することを目的とする。

なお、小規模事業者とは、製造業その他においては従業員20人以下、商業・サービス業においては従業員5人以下の事業者を指す。


U 調査の目的

奥尻町の地域経済を支える小規模事業者は、需要の低下、売り上げの減少、経営者の高齢化による事業承継等の問題に直面し、経営を持続的に行うためのビジネスモデルの再構築が必要となっている。
しかし、小規模事業者を取り巻く環境は急激に変化しているため、小規模事業者がその環境の変化について自力で情報収集を行うことは難しく、効果的な取り組みができていない。

そこで、伴走型小規模事業者支援推進事業として、地域の経済動向を調査する。これにより、小規模事業者が自身を取り巻く環境を正確に掴むことを目指す。 本調査における結果が、一社でも多くの小規模事業者の持続的経営に役立つことを願う。


V 調査概要

本調査は、官公庁などによる統計などの2次データを中心に小規模事業者に役立つ情報をまとめたものである。
内容は第1部、第2部と2部構成になっている。 第1部では、マクロ視点として北海道を取り巻く経済環境を調査している。第2部では、ミクロ視点として奥尻町の経済動向を分析している。


W 調査結果


第1部 北海道の経済動向調査

1. 概要

マクロ視点から奥尻町の事業者を取り巻く環境を俯瞰する。まずは現状分析として、道内中小企業の景況動向を分析する。次に、2017 年度の道内経済の見通しを概観する。これにより、奥尻町の小規模事業者がどのような環境下で事業を行うかを把握する。


2. 項目

本調査では、以下の項目に沿って北海道の経済動向を調査している。

(1) 中小企業景況動向
@ 業況D・I(全業種・推移)
A 業況D・I(業種別)
B 売上高D・I(全業種・推移)
C 売上高D・I(業種別)
D 採算(経常利益)D・I(全業種・推移)
E 採算(経常利益)D・I(業種別)
F 資金繰りD・I(全業種・推移)
G 資金繰りD・I(業種別)
H 経営上の問題点
(2) 2017 年度 道内経済の見通し
@ 道内経済の見通し
A 個人消費(小売業・卸売業・サービス業等を取り巻く環境)
B 住宅投資(建設業を取り巻く環境)
C 公共投資(建設業を取り巻く環境)

 

3.結果

(1) 中小企業景況動向

@ 業況D・I(全業種・推移)
北海道の中小企業者について業況動向をみる。
北海道商工会議所連合会の『中小企業景況調査報告書(第143 回)』によると平成28 年7 月〜9 月期の業況D・I※は△20.9 であった。また、平成28 年9 月〜12 月の見通しは△16.5 であり、マイナス幅 は縮小する見込みとなっている。

図表1のとおり、平成25 年10 月〜12 月期にむけて業況が持ち直してきたが、消費税増税前の平成25 年10 月〜12 月期の△5.9 をピークに業況が悪化し、消費税増税後の平成26 年4 月〜6 月期以降は△20.0 前後を推移している。これにより、北海道の中小企業者については景気回復がされておらず、 事業者を取り巻く環境は依然厳しいものと推測できる。
※D・Iとは、「好転」と答えた企業と「悪化」と答えた企業の割合の差のこと
※平成27 年7 月〜9 月期と比較して平成28 年7 月〜9 月期の業況はどうだったかを調査している。

図表1 業況D・I(全業種・推移)



出典:北海道商工会議所連合会『中小企業景況調査報告書(第143 回)』

A 業況D・I(業種別)
次に前ページでみた業況D・Iについて、業種別にその内訳をみる。
平成28 年7 月〜9 月期の業況について、前期と比較して「悪化した」と回答した企業はサービス業が37.4%、小売業が36.2%の順に大きくなっており、3割を超える結果となっている。また、前期と比較して「好転した」と回答した企業はサービス業13.2%、製造業11.1%の順に大きい。
サービス業は「悪化した」と回答した企業が37.4%と全業種で最も多い割合を占めるものの、「好転した」と回答した企業が13.2%でありこちらも全業種で最も多い割合である。つまり、サービス業については、業況が良い企業と悪い企業の2極化が進んでいることを示している。
一方、小売業は「悪化した」と回答した企業が36.2%と高い割合を占めるものの、「好転した」と回答した企業が8.7%であり他業種と比較して最も少ない割合である。つまり、小売業については、全体的に厳しい環境が続いていることを示している。

図表2 業況D・I(業種別)

出典:北海道商工会議所連合会『中小企業景況調査報告書(第143 回)』


B 売上高D・I(全業種・推移)
次に、売上高動向をみる。平成28 年7 月〜9 月期の売上高D・Iは△23.3 であった。また、平成28年9 月〜12 月の見通しは△14.7 であり、マイナス幅は縮小する見込みとなっている。業況D・I同様、平成25 年10 月〜12 月期をピークに△20.0 前後の推移が続いている。
平成26 年4 月に実施された消費税増税後の需要停滞から未だ脱していない状況が読み取れる。

図表3 売上高D・I(全業種・推移)

出典:北海道商工会議所連合会『中小企業景況調査報告書(第143 回)』

C 売上高D・I(業種別)
次に、売上高動向について業種別にみる。建設業について、「減少した」と回答した企業割合が47.8%となり、特に売上高の減少が伺える。

図表4 売上高D・I(業種別)


出典:北海道商工会議所連合会『中小企業景況調査報告書(第143 回)』


D 採算(経常利益)D・I(全業種・推移)
次に、採算(経常利益)動向をみる。平成28 年7 月〜9 月期の採算D・Iは△3.0 であった。業況 D・I、売上高D・Iの推移とは異なり、足元の採算は回復基調にあることが読み取れる。

図表5 採算(経常利益)D・I(全業種・推移)


出典:北海道商工会議所連合会『中小企業景況調査報告書(第143 回)』


E 採算(経常利益)D・I(業種別)
次に、採算(経常利益)動向について業種別にみる。
売上高の減少が伺えた建設業は、採算D・Iが4.5 とプラスの値を示している。売上高は減少しているものの施工単価が上がり、利益が確保できていることを示している。
卸売業、小売業は、採算D・Iが△8.7、△8.5 となっており、赤字企業が多い割合にある。

図表6 採算(経常利益)D・I(業種別)



出典:北海道商工会議所連合会『中小企業景況調査報告書(第143 回)』


F 資金繰りD・I(全業種・推移)
次に、資金繰り動向をみる。平成28 年7 月〜9 月期の資金繰りD・Iは△17.1 であった。また、平成28 年9 月〜12 月の見通しは△15.6 であり、マイナス幅は縮小する見込みとなっている。
平成20 年のリーマンショック以前の水準では資金繰りD・Iが△20.0 前後であったが、現在は△15.0 前後で推移しており、資金繰りに窮している企業は減少していることが読み取れる。

図表7 資金繰りD・I(全業種・推移)



出典:北海道商工会議所連合会『中小企業景況調査報告書(第143 回)』

 

G 資金繰りD・I(業種別)
次に、資金繰り動向について業種別にみる。卸売業、小売業について資金調達が円滑に行われておらず、D・I値が低いことがわかる。

図表8 資金繰りD・I(業種別)


出典:北海道商工会議所連合会『中小企業景況調査報告書(第143 回)』


H 経営上の問題点
最後に、業種ごとの経営上の問題点をみる。

すべての業種について、「需要の停滞」が経営上の問題点にあがっていることがわかる。
また、製造業において「製品ニーズの変化への対応」、小売業において「消費者ニーズの変化への対応」、サービス業において「利用者ニーズの変化への対応」が経営上の問題点にあがっている。つまり、求められる製品・商品・サービスが現在進行形で変化しており、これらへの対応が必要であることを示している。

図表9 経営上の問題点

出典:北海道商工会議所連合会『中小企業景況調査報告書(第143 回)』


I 参考
図表1〜図表9は、北海道商工会議所連合会による『中小企業景況調査報告書(第143 回)』を引用している。そこで、本調査概要を掲載する。
調査対象は道内中小企業者。調査時期は平成28 年9 月、調査対象期間は平成28 年7 月〜9 月期実績および平成28 年10 月〜12 月の見通しについてである。
業種別・規模別の調査企業数は以下のとおりである。

図表10 業種別・規模別回答状況


出典:北海道商工会議所連合会『中小企業景況調査報告書(第143 回)』


(2) 2017 年度 道内経済の見通し

@ 道内経済の見通し
北海道銀行『2017 年度 北海道経済の展望』によると、2017 年度の道内景気見通しは、前年の台風被害の影響が一部残るものの、以下の効果が見込まれるとしている。
1.国内・道内の景気持ち直しに伴う需要増
2.台風災害復旧工事の発注増加(2016 年度補正予算計上分)
3.空港発着便数規制の緩和などによる外国人観光客増加

以上の要因により、実質道内経済成長率は、2016 年度が0.7%、2017 年度が0.9%となることが見込まれている。

図表11 道内経済の見通し

出典:北海道銀行『2017 年度 北海道経済の展望』

なお、中小企業を取り巻く外部環境としては以下がポイントとなる。
・道内における2017 年度の個人消費の伸び率は0.6%増となる
・道内における2017 年度の住宅投資の伸び率は△2.3%となる。
・道内における2017 年度の公共投資の伸び率は7.2%増となる。
詳細は次ページ以降を参照されたい。


A 個人消費(小売業・卸売業・サービス業等を取り巻く環境)
同資料によると、2017 年度の個人消費については以下のとおり展望している。

足元までの個人消費を家計調査等の需要側統計からみると、社会保険料の負担増などによる可処分所得の伸び悩みに加え、天候不順等による食料品の相次ぐ値上げなどもあり、節約志向の根強さが窺える。

2017 年を展望すると、@雇用情勢の回復持続、A所得情勢の緩やかな改善、B低所得者向け給付金、雇用保険料引き下げなどの家計支援策、などが見込まれる。この結果、生活防衛意識は残るものの、消費に対する姿勢は幾分和らいでいくとみられ、個人消費は緩慢ながら持ち直しの基調が続こう。

B 住宅投資(建設業を取り巻く環境)
同資料によると、2017 年度の住宅投資については以下のとおり記述している。
住宅投資の先行指標となる新設住宅着工戸数について、利用関係別に2016 年度を見通す。持家は、消費税増税を見据えた駆け込みが上期を押し上げたものの、増税延期決定を受けて下期は落ち込むとみられ、通年では小幅な増加にとどまろう。一方、貸家は、相続税対策や旺盛な投資マインドを背景に高い伸びが見込まれる。分譲住宅は、マンションが前年割れとなるものの、戸建てが下支え(供給側による駆け込みが主因)し、概ね前年並みの水準が見込まれる。この結果、貸家が全体を押し上げ、新設住宅着工戸数は高い水準を維持する。

2017 年度を展望すると、@持家や分譲戸建て住宅において、消費税増税を見据えた駆け込みなどにより、着工需要が先食いされてきたこと、A貸家の増加が 3 年続いたことから、投資マインドにややブレーキがかかると予想されること、などを背景に、全体の着工戸数は減少に転じよう。

図表12 左:「貸家」の着工戸数(道内)、右:新設住宅着工戸数の見通し(道内)


出典:北海道銀行『2017 年度 北海道経済の展望』

C 公共投資(建設業を取り巻く環境)
同資料によると、2017 年度の公共投資については以下のとおり展望している。
2016 年度の発注額の押し上げ要因としては、北海道開発事業費(事業費ベース)において、@前年比大幅増となった2015 年度補正予算の殆どが、2016 年度に繰り越されて執行されたこと、A前年並み水準を確保した2016 年度当初予算の執行が前倒しされたこと、などが挙げられる。下期は、台風被災地向け災害復旧工事の一部について年度内執行が見込まれること、などが下支え材料となろう。この
結果、年度ベースでの工事量は増加が見込まれる。
2017 年度を展望すると、北海道新幹線工事(新函館北斗−札幌間)の本格化に伴い、公的企業部門での投資が増加しよう。また、国や道の2016 年度補正予算(台風被災地の災害復旧工事を含む)の多くが、2017 年度に繰り越されて執行されるとみられ、官公庁発注工事は増加が見込まれる。この結果、投資ベースでも2年連続の増加が予想され、比較的大きな伸びとなろう。

図表13 名目公共投資(道内)


出典:北海道銀行『2017 年度 北海道経済の展望』



第2部 奥尻町の事業者を取り巻く環境

1. 概要
小規模事業者の多くは市場の変化や消費者ニーズの変化に合わせたビジネスモデルの転換ができておらず、その結果、収益が悪化している。そこで必要となるのがビジネスモデルの再構築である。
ビジネスモデルの再構築というと、仰々しく感じるかもしれない。しかし、実はとても簡単であ る。

ビジネスモデルの再構築=伸びている市場に目を向けること

既存事業の売上高が減少傾向にあるのであれば、おそらく市場が縮小しているのであろう。たとえ ば、人口が減少しているなかで住民を主要顧客とする飲食店を営んでいるのであれば、売上高は減少する。これは当然である。

そこで、ビジネスモデルの再構築を行う。前述した飲食店であれば、伸びている市場である、たとえば高齢者をターゲットとする店舗へ改装することなどがあげられる。経営とは、このように外部環境に適応しながらビジネスモデルを転換し続けることといえる。

本調査は、奥尻町の小規模事業者が知っておきたい「伸びている市場」についてまとめたものである。

2. 項目
本調査では、以下のテーマに沿って奥尻町の事業者にとってビジネスチャンスとなる市場を考察している。

テーマ1 事業所数
テーマ2 人口推移
テーマ3 観光客推移1
テーマ4 観光客推移2
テーマ5 観光客の特性を知る
テーマ6 観光客獲得のためにはどのような取り組みが必要なのか
テーマ7 新たな販路開拓方法(インターネット販売)
テーマ8 新たな販路開拓方法(ふるさと納税)



テーマ1 事業所数

はじめに、奥尻町の事業所数を確認する。平成26年度経済センサスによれば、奥尻町の事業所数は222事業所である。内訳としては、「卸売業・小売業」が59事業所(26.6%)を占めており、「宿泊業・飲食サービス業」が55事業所(24.7%)と続く。
「卸売業・小売業」と「宿泊業・飲食サービス業」は共に、消費者を顧客とするビジネス(BtoC)であり、消費者の動向が事業を左右するといえる。そこで、次のテーマからは消費者の動向を分析する。

図表14 奥尻町の事業所数

出典:RESAS(産業マップ→全産業花火図)


テーマ2 人口推移

消費者を顧客とするビジネスにおいては、人口が業績を左右する。そこで、人口の推移を確認す
る。
国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、2040 年には奥尻町の総人口が1,324 人と2015 年の
2,662 人の約半数となる
と推計している。

図表15 奥尻町の人口推移

出典:RESAS(人口構成→人口推移)

小売業、飲食業などの対消費者向け事業を行う事業者は注意が必要である。上図のとおり、人口の減少が明らかであるためである。なお、高齢者が主な顧客である事業者は、現在は売上高が安定しているかもしれないが、2020 年頃をピークに徐々に顧客数が減少していくであろう。
新たな対象顧客を発掘するなど、ビジネスモデルの再構築が必要である。




テーマ3 観光客推移1

消費者を顧客とするビジネスにおいて、住民のみを顧客対象とすれば、今後、さらなる厳しい経営環境となることがわかった。そこで、次に、光客が安定した顧客となり得るかを分析する。
奥尻町の観光入込客数をみると、平成23 年は33,300 人、平成27 年は26,600 人であった。人数としては、20%の減少をみせているものの、比較的安定した顧客となることを示している。


平成23年平成24年平成25年平成26年平成27年
平成27 年に26,600 人の観光入込客数がある。現在、住民のみをターゲットとしている場合は、この顧客を新たなターゲットにしたときにどれくらい業績に寄与するか、まずは皮算用を行いたい。たとえば、飲食店の場合を考える。26,600 人のうち、10%(2,660 人)を取り込む
ことにすれば、単価1,000 円として売上高で266 万円、粗利60%であれば粗利が160 万円のアップとなる。このように皮算用したあと、やる価値があるのかないのかを検討する。




テーマ4 観光客推移2

観光客を新たなターゲットにする際、気をつけなければならない点がある。それが、需要に季節変動がある点である。
奥尻町の観光入込客数をみると、観光客が多い月が8 月で5,900 人、少ない月が1 月〜2 月で600 人となっており、その差が10 倍近くになる。


奥尻町において観光客飲みをターゲットにするビジネスは成立しづらい。たとえば、製造業などであれば、閑散期に製品を製造(作り置き)しておき、繁忙期に販売するなどのビジネスモデルが成立する。一方、サービス業、飲食業等はその事業特性から、繁閑を埋めることができないためである。その特性を勘案し、閑散期にどのように収益をあげることができるかについて、ビジネスチャンスを見つめ直したい。



テーマ5 観光客の特性を知る

それでは、ここで観光客の特性についてみていきたい。
下図は旅行形態の推移である。宿泊旅行・日帰り旅行ともに、8割程度が個人旅行であることがわかる。さらに、個人旅行の割合は増加傾向にある。
これは、観光客が団体・パック旅行を活用しなくてもよいだけの情報収集が可能になっていることを示している。


図表19 旅行形態の推移(出張・業務旅行を除く)

出典:平成27 年度中小企業白書


個人旅行客の情報収集手段は、従来型のマスメディアから、インターネットやSNSなどに移行している。そのため、個人旅行客の獲得のためには、ソーシャルメディアによる情報発信などを継続して行う必要がある。




テーマ6 観光客獲得のためにはどのような取り組みが必要なのか

次に、観光客獲得のためにどのような取り組みが必要かを考察する。
旅行先で食べるものを選ぶ際の理由は下図のとおりである。大きく3つの区分にわかれている。
1.地元の食材を使用していたり、地元の名物料理であること(下図、青枠部分)
2.見た目、価格、分量が丁度よいこと(下図、オレンジ枠部分)
3.インターネットやガイドブックで評判が良いこと(下図、黄色枠部分)
観光客獲得のためには、上記「1.」「3.」だけ取り組めばよい。「2.」については、地元住民を対象としていても既に企業努力をしていると考えられるためである。

図表20 旅行先で食べるものを選ぶ際の理由

出典:平成27 年度中小企業白書

飲食店が新たに観光客を獲得しようとする場合を考える。もちろん、お金をかけて広告宣伝費をかければそれなりに集客が可能であるであろう。ただし、資金が潤沢でなければできない。
そこで、まずは、地元の食材を使用するメニュー、地元の名物料理等をひとつだけでも準備してみたい。観光客向けメニューである。その料理が魅力的であれば、食べた旅行客が進んで情 報発信をしてくれるはずである。すると、その評判により新たな顧客獲得という良い流れが生じる可能性がある。お金をかけない集客方法をまずは試してみたい。


テーマ7 新たな販路開拓方法(インターネット販売)


奥尻町内での消費者との直接的な接点といえば、前ページまでに触れた住民および観光客であろう。市場規模は先に示したとおりである。この市場規模では十分収益をあげられないのであれば、市場範囲を拡大するしかない。この時、活用を検討すべきはインターネットである。そこで、インターネット市場の動向を確認する。
インターネット市場は年々拡大しており、平成 27 年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、13.8 兆円(前年比 7.6%増)まで拡大している。

図表21 日本のBtoC-EC 市場規模の推移

出典:経済産業省「電子商取引に関する市場調査の結果」

インターネット販売の参入には2つの方法がある。1つ目は、「楽天市場」や「Yahoo!ショッ ピング」に代表されるインターネットモールに出店する方法。2つ目は、自社サイトで商品を販売する方法である。前者は百貨店への出店、後者は個人商店とイメージすればよいであろう。
事業者の規模(大企業か中小企業か)に関係なく全国の市場を対象とすることができるため、多くの小規模事業者が参入している市場となっている。


 

テーマ8 新たな販路開拓方法(ふるさと納税)

インターネット販売と合わせて着目したい市場がある。それが「ふるさと納税」である。多くの地
方自治体で、「ふるさと納税」の返礼品として中小企業の加工品(地域特産品)などを扱っている。
市場規模をみると、「ふるさと納税」の平成27 年度の実績は、約1,653 億円(対前年度比:約4.3
倍)、約726 万件(同:約3.8 倍)であった。
奥尻町の平成26 年度のふるさと納税額が1,944 万円であったことを考えると、返礼品の市場規模も
一定規模が推測できる。


図表22 ふるさと納税の受入額及び受入件数(全国計)

出典:総務省 自治税務局市町村税課「ふるさと納税に関する現況調査結果」

総務省の調査により、「ふるさと納税」寄付額の約4割が返礼品経費として使われていることがわかった。奥尻町のふるさと納税額が1,944 万円であれば、約4割の777 万円が事業者の売上げになっていることになる。現状は777 万円と少額であるが、北海道上士幌町(人口5,000
人弱)が10 億円近い納税額を集めていることを考えると、奥尻町も工夫次第では、今後増加する可能性がある。先行者利益を獲得するために、早めにこの市場には目をつけたい。